スポーツが都市を変える。

◎フレッド・ルボウ

ニューヨークシティマラソンと私

ニューヨーク市への貢献

 地域への貢献という点で、このニューヨークシティマラソンは大変有効だと思います。つまり、ニューヨーク5地区を一括して巻き込む唯一のイベントとして企画できたのです。昨年の場合、81カ国から13,000人の海外ランナーがあつまってきました。

ニューヨークシティマラソンは、出場申し込みの手紙を出して参加するのですが、誰でも出場できるというわけではなく、初めてマラソンをする人などはくじ引きで抽選されます。こういった手間にどんどんな費用がかかり、年ごとに増加していきます。幸い、ケミカル銀行、メルセデス・ベンツ社、ジョン・ハンコック(保険会社)、アシックス、セイコー、ロンゾーニ(パスタ会社)などのすばらしいスポンサーを得て、毎年600万ドルを計上していただいています。

 このマラソンは、ABC放送で生中継され、世界48カ国で放送されています。残念なのは日本で放送されていないことですが、今後、放送されることを強く望んでいます。参加者のうち、女性が20%います。5地区のコースの中には、ニューヨークに住んでいる人でもあまり行かないようなところ、たとえばハーレムエリアなどがありますが、このレースでは女性でもそういうところを走っています。これは、このマラソンの安全性をはっきりと物語る事実といえましょう。

 (ちなみに、女性ランナーにはゴール地点でバラの花を手渡しています。)マラソンの日には、犯罪率が年間で最低となっています。健全なイベントであるということが、ニューヨークの子供たちの非行防止や住民たちにも大変よい影響をもたらしています。また、ニューヨークシティマラソンはおよそ10,000人のボランティアでサポートされており、その役割はとても重要なものです。この中には毎年欠かさず参加する人もいます。たった3ドルのTシャツの報酬だけなのに、楽しんでやっていることに驚くとともに心から感謝しています。

 重要なことは、マラソンを走る人とそれを取り巻く人々とが一体感をもって行われていることで、このお祭り的要素によって、ニューヨークに刺激が生まれ、市民のプライドを満足させ、世界中の人々との交流が育まれることです。大通りを封鎖することについても、今までたった1本の不平の電話も来ていません。ニューヨークのビンキンス市長が、このマラソンから波及する市の経済効果を計算したところ、800万 ドルという数字が出たそうです。これは、かなり大きな効果ではないかと思います。

ニューヨークシティマラソンの誕生

 私は以前テニスをやっていましたが、あまり体力がないので不自由に感じていました。そこでコーチに勧められて、セントラルパークでジョギングを始めました。1969年のことです。体力づくりのつもりで走り始めたのですが、走る時オアシスを得たような感覚、自分の望みがかなったようないい気分になりました。それで、ボストンマラソンやほかのマラソンを走るようになったのです。1970年、セントラルパークを4周する第1回大会が開かれたのですが、1975年に、私はそのセントラルパークを出発して、ニューヨークの5つの地区を走る「ニューヨークシティマラソン」というものを考えはじめました。

 5つの大きな橋を渡って、360の交差点を抜けるというコースを設定したあと、5地区の区長さんに話し、警察側との交渉に入りました。そして2,000人の警察官の動員を依頼しました。第一回には55人の完走者だったものが、75年には500人の参加者、76年には2,000人と増えていき、その後は成長の連続でした。昨年は、実に27,875人ものランナーが走りました。これは1分間に350人がフィニッシュラインを通過する計算になり、コンピューターでさえ人数が把握できなくなってしまいました。私たちは大きなマラソンをめざしているのではなく、最良のマラソン、最高のマラソンを目指しているので、今年は10%ほど人数を削減しようと考えています。

マラソンはマラソンを越えて

 昨年、ニューヨークシティマラソンのあとに、ちょっとした出来事が起こりました。百数十本の電話と数千通の手紙が届いたのです。そのほとんどがランナーからではなくて、ガンを患った方やガン患者の家族の方からものでした。私はとても感動を受けまして、1ヶ月以内にすべての方に電話や手紙で返事を出しました。実は3年前、私はガンに権威のあるニューヨーク市のスロンケタリング・ホスピタルを退院したのですが、そのときガン治療のための基金を募ることを思いつき、マラソンと結びつけたわけです。この3年間で、基金は250万ドルを越えました。ニューヨークシティマラソンはマラソンだけに終わらず、マラソンを越えたものを生み出しつつあるのです。私はいま61才です。2002年に70才になったとき、マラソン出場ちょうど70回目でニューヨークシティマラソンを走りたい。


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