特集・巻頭エッセイ。スポーツは、アートである。

◎三屋裕子

スポーツのステイタスを高めるために

バレーボールの魅力というのは、局面融合。一つの動作がいろんな意味合いを もっているし、相手とのかけひきがあったり、相手の次の手を推測したり、さ らにその先の攻撃を考えたりとたいへん複雑で繊細な協議ですから、豊かなイ メージがないとやっていけません。いわゆるメンタルな部分が多いに関与する という意味で、芸術すなわちアートだと思うわけなんですね。スポーツという とすぐ汗とか涙とかの部分でドラマが作られることがおおいけれど、たとえば 0,01秒を争う世界はほかのどこにもないものですよね。バレーボールのスパイ クだと、ボールが床につくまでの時間はわずか0.3秒くらいだし、それを素手 で拾い上げる。ブロックする。この、瞬間の美と力のタイミングはすごいもの です。にたようなことは水泳や陸上競技やF1とかを考えても分かるように、 スポーツ全般にいえることだと思います。

私は今、筑波大学の大学院でスポーツ科学を学んでいます。その中でもとくに コーチ学を研究していますけど、この学問はせんしゅはに直接接触して、テク ニックだけでなく、いろんな角度から指導していきます。トレーニングや食事 にしてもここにちがったメニューを用意したり、とても幅が広いんですね。つ まりスポーツ医学とか生物学とかの学問を、いかに選手たちにもどしていくか の橋渡しをするわけで、割に新しい分野の仕事なんです。私はもとアスリート ですから、そういった机の上の学問と現場のアストリートたちとのジョイント の部分をうまくつとめられるんじゃないかと考えてがんばっています。

 それともう一つ、単にバレーボールだけではなくスポーツというもののステイタスを もっともっと高めなければいけないと考えているんです。そのためには、スポー ツのベーシックな部分から日常生活の関わりに至るトータルなスポーツ・マネー ジメントまで、しっかりした言葉で語れるようになりたい。もっとそれにはこ の先10年くらいかかるかも知れませんが、つねに積極思考で自分との戦いを続 けていくつもりです。

チームプレーの不思議

私はバレーボールというチーム競技を14年やっていて、ロサンゼルス・オリン ピックでは銅メダルを獲得できました。選手生活の中でいろいろと教わったこ とがたくさんあります。その一つがチームでなければ発揮できない、チーム力 のすばらしさを知ったことです。

チーム力というのは、個人のミスを全体のミスにしないことです。つまり、だ れかがレシーブでボールをはじいてコートの外に出しても、だれかがそれをカ バーすればミスにはならない。もうひとつは、自分の力を他人から引き出して もらえること。よくアタッカーを生かすセッター、セッターを生かすレシーバー といいますが、それですね。ボールは一人しかつわれないから、チームプレー で何が大切かというと、ボールをもっていないときにいかに気が利くかという こと。いいところに動いていないといいパスができないし、ボールに触れてい ない選手のポジショニングですべてが決まるといってもいいでしょう。観戦し ている人やテレビ画面ではボールだけを追いますけど、実はボールを持ってい ない選手のほうが重要なんですよ。相手といっしょのことをやろうと思わない で、相手の動作に応じて自分のいまの動きを決めていく。その気の配りかたが 大切なんです。だから、女子バレーボールの選手はきっといいお嫁さんになれ ると思いますよ。(笑い)その反面、チーム競技ならではのしんどさもありま す。基本的には人に合わせることのできる性格でないといけない。疲れていて も練習しないといけなかったり、人のペースで動くことのできる人じゃないと だめですね。チームの6人が一連の動きをつくっていくので、メンバーが入れ 代わって最初のうちにぎこちない動きがあったりすると、しっくりいかないこ とがある。また、個人としてすごく大きくて強くてうまい選手だからとメンバー に入れても、チームとしてうまくいくとは限りません。小さいけれど、その人 が入ることでチーム全体が締まるといったことも多いのです。監督というのは、 そのへんの微妙なチームづくりを、いわばパズルのように常に考えているわけ ですね。

文武両道のお手本として

とてもラッキーなことに、私は3回もユニバーシアード大会に出場することが できました。最初、昭和52年(1977年)ブルガリアのソフィア大会に遠征した ときは、ちょうどワールドカップの直前で何も知らず大学の選抜として行った ので、他のチームがすべてナショナルチームだったことにまず驚きました。規 模こそオリンピックより小さいけど、とんでもない大会に出ているんだという 気持ちになったことを覚えています。どの国の選手もシビアに勝つために参加 していて、ユニバーシアードのすごさを知りましたね。2度目のメキシコシティ 大会では、おかげでみんなにいろんなことを教えられることができました。3 度目のルーマニア・ブカレスト大会では共産圏のチームとも交流が持てたので すが、戦火のないところでバレーボールができる幸せをその人たちから学びま したね。大学に行くこと自体がヨーロッパではとてもステイタスのあることな ので、勉強もスポーツも両方きちんとやっている人たちが集まってきているユ ニバーシアード大会は、いってみれば文武両道のお手本なんでしょうね。みん な国の代表として国旗をつけて出てきているので、オリンピックと同じくらい の緊張感が満ち満ちています。

 つねづね思うことなんですが、私はスポーツマ ンというのは頭がよくなくてはいけないということ。カラダだけじゃない、ア タマだけじゃない。両方のバランスが上手くとれているという意味で、ユニバー シアード大会は小・中学生にも見てもらいたいなと思いますね。私が残念なの は、日本国内でのユニバーシアードに出られなかったこと。東京と神戸ですで に開催されていますが、正直いってまだまだユニバーシアードに対しての認知 度はあまり高くないので、こんど開かれる平成7年(1995年)の福岡大会は、 本当のユニバーシアードとはこんなものなんだよということを、きちんと認識 してもらえるようなすばらしい大会であってほしいと思います。また、社会人 と高校の谷間にある大学女子バレーにとっては脚光を浴びる数少ないチャンス なので、ぜひがんばってほしいですね。


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